第2話 悪魔の操り手 08



非常に悔しかったーー自分たちの強さを自覚していたつもりだったゼオン達は悪魔の言葉を否定しようにも否定できなかった事に
そして、否定できなかった原因である圧倒的な力の差を感じた事にもーーー

滲み出るその気持ちを噛み締めながらも、無理矢理胸の中に押し込み、ゼオンは立ち去る悪魔を見据えて言わなければならない言葉を息を整えながら絞り出す


「お前は、一体何者だ?
それに『ピーヌス』を使って何をしようとしている?」


悪魔は歩き出した足を止め、三人を一瞥する様に少しだけ振り返ると、一呼吸置いて受けた言葉を投げ返す


「…そうだな、オレは…お前達とは違う、『力ある』ジークフリートを知る者だ」

「!」

「それってどういう、こと…?」


『神器霊核』について知っている口ぶりから悪魔の答えについても半端納得はいくものの、自分はジークフリートの血族と関わりがあるようなことを言われた三人は結局、内心疑問が強くなっていくだけだった

滅多に感情を表に出さないマレーシャも目を見開いて驚きの顔を隠せず、つい真意を問いただす

しかし、悪魔はそれだけを口にしてマレーシャの質問には反応せず、再び背を向けて森に向かって歩き出していた

その後ろ姿を見せられたゼオンはしばらく顔を俯かせて目を閉じると、片膝をついたまま赤色の霊気を全身へと巡らせる

正直、悪魔が何者なのか知りたい気持ちはあったが、それ以上に何も出来ず、いいようにあしらわれているこの現状に対する悔しい思いのほうが強い

そのまま沈黙すること数秒ーー
ゼオンは一つ深い息を吐いて覚悟を決めると、もう一度両手首に赤い霊気の輪と背後に円盤状の霊核を作り出し『神器霊核』を発動させる、その中から五頭の龍をの頭を覗かせると目を見開いて叫んだ


「このまま行かせると思うな!…いくぞ!『五頭昇龍』!!」


叫びと同時に霊格の中から生えるように現れた五頭の龍が、それぞれ単体に分かれると悪魔を取り囲むように陣取り、五方向から炎を纏った霊気の玉『炎玉・着火玉』を口から吐き出すように放つ

ゼオンが『神器霊核』を発動させた時、既に足を止めていた悪魔は、落ち着いた表情で自身に向かって飛来する炎の玉を右手に纏った霊気を飛ばして振り払う

払われた球は悪魔に接触する前に爆散して視界が煙幕で防がれるものの、後方から突撃してくる二体の龍の接近を感知し、炎の球を振り払った右手をそのまま後ろへとかざす

そして右掌から赤い巨大レーザーを澄ました顔で放って周りの煙幕ごと二体の龍を跡形もなく粉砕していった

その威力は凄まじく、粉砕した龍を貫通するのみに留まらず、さらにその先にある直線上の森の木々と土も赤いレーザーの障害物にすらならず、あたり一帯を吹き飛ばして大量の砂塵を巻き起こす

レーザーは止まることなく、そのまま山に巨大な風穴を開けて突き抜けており、その穴から山の向こう側の景色が垣間見える状況がレーザーの威力を物語っていた

舞い上がった砂埃や落ち葉が飛び交う中、レーザーの破壊力を目にしながらもゼオンは怯むことなく攻撃を続け、今度は正面から二頭の龍が口を開きながら悪魔に飛来する


「芸がないな」


ゼオンは未だ立ち上がれず、セレーラルとマレーシャはなんとか立ち上がってはいるが、臨戦態勢がとれる姿勢ではない

その状況を確認しながら悪魔はその連続攻撃にも冷静に反応し、今度も接触前にレーザーを放つべく右手をかざす

そして今にも迎撃しようとした瞬間ーーー


「だったら!」


立ち上がることすらできなかったゼオンは一切の予備動作も無く、唐突に悪魔の背後に既に大剣を振り上げていた状態で現れた


「これならっ!!」

「甘いぞ!」


悪魔は予想もしていなかったゼオンの出現に一瞬驚きはしたが、動きを硬直させることなく、この状況をすぐに理解する

ゼオンは自分のメインアクセルである『反復時連直』を使い、まだ戦闘直後に悪魔に切り掛かった時間の位置とその時の動きを能力で強制的に再現させていた

しかし刹那の奇襲に対しても全く動揺せず、ゼオンはダメージや傷を負ったまま、剣を振り下ろす速度が鈍っていたゼオンに悪魔は空いた左手でその頭部を掴むべく勢いよく突き出す

攻撃されるより早く、その頭部を難なく掴むも今度は離れた位置に待機していた龍とゼオンの位置が一瞬にして入れ替わり、悪魔が掴んでいた左手には『神器霊核』により作られた龍の姿があった


「どうだ!」

「ッ!!」


流石に今度は驚きで動きを止めてしまった悪魔は一瞬のスキを作ってしまい、左手は龍に絡め取られ、右手で迎撃する筈の二体の龍の接近を許してしまう


「ふん!」


止むを得ず、今度は強力な霊気を纏って防御力を上げてるが、左手に絡みついた龍にその一部を吸収されて龍が肥大化していく


「やるなら今しかないね!『戦車砲』!!」

「…!」


反応も対応も遅れた悪魔のスキを前にセレーラルも20の砲門を持つ『神器霊核』の『戦車砲』を現し、両手に持つ二丁拳銃と合わせて22の口からビームの連続射撃を行い、マレーシャは『神器霊核』は発動させてないものの、両手から緑の炎玉を止まることなく悪魔に向かって放ち続ける


悪魔はこれらの攻撃を避けようと初めて飛び引こうとするが、その動作を見逃さなかったゼオンが悪魔の足元に力が入るタイミングに合わせて、悪魔の近くで再び姿を現せていた三体の龍を大爆発させて悪魔のバランスを崩す


「っ!!」


爆煙が立ち込めて視界が防がれた状況の中、防御態勢も回避態勢も取れない悪魔の眼前に瞬く間に『戦車砲』による連続ビームが迫っていた