第4話 アクセルの力 01



ラクナへの任務報告を終え、戦闘服に着替え直したゼオン、セレーラル、マレーシャの三人はゴスロリ服のアーシェリと共に自宅への帰路を歩いていた

戦闘服に着替えたとはいえ、暫く安静するようにと診断された今は激しい運動すらできないが

そうして横断歩道の信号が赤を示している手前で
ゼオンたちは足を止めてラクナに任務報告した時のことを思い出す

現時点で言えばあの紫髪の悪魔に関する情報の進展はなかった

いつも眠そうにして気怠げなラクナも紫髪の悪魔が『神器霊核』を使用していたという報告をゼオンから聞いた時は流石に驚いて眠気が吹っ飛んだかのように弁舌になっていた

その悪魔の正体がルーシェスかスタードかは分からないが、この国の創設者のスタードであれば情報が残っているかもしれないとその資料探しをお願いしたら直ぐに引き受けてくれた為、暫くは報告待ちの状況になり、今に至る

けたたましく鳴り響く都市特有の車のエンジン音や生活音の中、周りの音にかき消されないようにゼオンは大きな声で話し始めた


「とりあえず、あの悪魔の目的は分からないが、あとは司令に任せてオレ達はオレ達でできることをするしかないか」

「ん?ネットワークでも使って調べるっつーのか?」


独り言のようにぼやくゼオンに、真後ろを歩くアーシェリが反応を返すが、ゼオンは違うとかぶりを振る


「強くなること!つまりはトレーニングだ!」

「おいおい、殆ど外傷はないとはいえ一応安静にしなきゃダメなんじゃねーのか?」


宣言するかのように胸を張って堂々とトレーニング気分のゼオンに対して、アーシェリが慌ててゼオンを諭すが、意外にもセレーラルがアーシェリの肩に腕を回す

そして、ゼオンと目線で会話する為に目を合わせて頷き、彼女の意見に肯定の意を示していた


「ラルまでトレーニングする気かよ」

「トレーニングにも種類があるからね、体を動かすトレーニングが全てじゃないよん
そうだよね、ゼオ姉!」

「そうだ、オレ達が今できるのは体を鍛える訳じゃなくて、能力を鍛えるトレーニングだ」


紫髪の悪魔との戦闘の折、不覚にも相手からの助言を受けたゼオンは自分の能力に対して一つの可能性を見出していた

体外に剥き出しにした霊核を使って相手の霊気を取り込むことができるということを

あの悪魔が口にし、咄嗟のことだったとはいえ実際にゼオンも実演したその可能性を

ゼオンはあの闘いの悔しさを胸中に秘めながらも、強くなれるという希望が上回っていたことから期待に胸が膨らんでおり、信号の変わり目と共に四人の中で一番に意気揚々と横断歩道を歩き始める

気が落ち込んでいた時のゼオン達が立ち直る場に居合わせなかったアーシェリは、非常に前向きな姿勢で意気揚々と歩く姉の後ろで
やられたばかりじゃねーのかよーーー
気落ちしない姉の図太さに感心を抱きながら、外面から見える生き生きとした後ろ姿にやや呆れた感情を抱く

やがて、高層ビルがそびえ立つ繁華街の先ーーー
河川敷を越えて、住宅街にある二階建ての自宅前に辿り着くと、中身の入った買い物袋を両手それぞれに抱えた買い物帰りの七女・アウリと偶然出会した


「あれ?みんな今日は早いね!もう任務は終わったの?」


連絡を受けて誰にも知らせず本社まで出向いたアーシェリと違って、これまでの経緯を全く知らないアウリはゼオン達の予想よりも早い帰宅に首を傾げる

任務自体は成功したものの、やられて帰ってきたことを素直に言い出すことが出来ない一同は他の誰かが何とか答えてくれるのを待つものの、各々お互いの顔を見合わせて気まずい沈黙が場を流すだけだった

誰もが中々言い出せない空気の中、アーシェリが他の三人を気遣って誤魔化そうとアウリに説明する


「ああ…まぁなんだ、意外と単純な任務だったみてーだからな
時間はあんま取らなかったっつー訳だ」


アーシェリの気遣いはありがたかったが、ゼオンはアーシェリに右手を翳して静止させる

バツが悪いときは普段から当たり前のように誤魔化すことが多かったゼオンだったが

しかし、紫髪の悪魔との再戦の可能性と何より自分たちの未熟さを認めるところから始めなければならない

そう思った彼女は闘いによって所々破れた戦闘服の一部分である裾を静アウリに見せて、正直に話す


「確かに建前上では任務成功だけど、オレ達三人がかりでも一人の悪魔に歯が立たなかったんだ」

「えっ?そうなの?ぜおねえ達が!?」

「ああ、お陰様で服もボロボロ…生きて帰れただけ奇跡みたいなもんだ」


『九人姉妹』といえばCICが持つ二、三十代の男性ばかりの軍兵の中で取り分け戦闘能力が高い部類に属しており、軍隊としてではなく、少数部隊で手取り足取り様々任務に携わるMulti legged soldierーーー
MLSの戦闘チームである

流石に最高峰と言われるチームには敵わないものの、生まれ持った能力に恵まれ、公私ともに過ごしてきた姉妹同士のコンビネーションによって、国の上位チームに割り込めるくらいの力を持っている

姉妹の中で、長女であるゼオンは頭ひとつ出ている力の持ち主の筈だが、そのゼオンが率いたチームでも全く歯が立たないことにアウリは驚いていた

普段表には出さないが、アウリ自身も自分の力に対して強い自負があり、1人ならともかく姉妹と組めば誰にも負けないと思っていた

その為、馬鹿正直なアウリでもゼオンの言葉を間に受けることができず、セレーラルとマレーシャの顔を交互に見て彼女達の顔色を何度も伺う