第1話 始まりの事件 03



やがて日も沈み切って夜も更けた頃、ラーメンを食べ終わった一同は満腹感に満足しつつ、店の会計を済ませていた


「はぁ~美味かったぜ!いつかもう一度食いに行きてーな!」

「うん、なんかこう‥…とにかくおいしかった!
来週この近くで任務があるから、そのときに一緒にいくぞ!」

「おぅ、また一緒に任務だしそれもいーな!
これだけ美味しいなら今度は二杯食ってやるぜ!」

「じゃあわたしは三杯だ!」


店に入るときとは打って変わって、アーシェリとシェリエールはお互いに笑い合いながら先に店を後にしていた


「おいおい…アウリじゃあるまいし、お前らそんなに食べれないだろ…」


二人の会話を聞きながらゼオンは後ろで、誰にも聞こえないようにそう呟きながら会話に茶々を入れる


「ところでシェリーはラーメンのなにがどう美味しかったんだ?」

「えっと…」


ゼオンからの突然の質問にシェリエールは言葉を一瞬詰まらせて、何がどう美味しかったかを上手く表現する為に、しばらく間を置いて考えるも


「…とにかく醤油ラーメンがおいしかった!」


と、考えた末に淡白な答え方しかできなかった
発言したシェリエール自身もそれを分かってか恥ずかしそうに俯く手前、ゼオンは勝ち誇ったように腕を組んで頷いた


「シェリーはグルメコメントが下手くそだな~それじゃあ何がどう美味しいのか分からないぞ」

「じゃあおまえがいってみろ!」


突拍子もなく飛んできた返しの意見に今度はゼオンが戸惑い、頭の中の考えをを一生懸命捻らせる


「そうだな…濃厚な醤油の出汁が…綺麗で…」

「『綺麗』って何だよ…」


そうして、回答に四苦八苦しながら結局的外れな単語を口にしてしまったためにアーシェリに横槍を入れられて今度はゼオンが言葉を失う

暫く沈黙の後、とりあえず罰が悪そうに右手を後ろ手に回して笑いながら誤魔化しておくことしかできなかった


「結局ダメじゃないか…」

「まぁ、そんなに美味かったなら私としても紹介した甲斐があったよ」


軽くじゃれ合うゼオンたち三人の後に店を出てきた初老の男性は財布をポケットにしまうと、三人の元まで歩いていく


「オッチャン!ごちそうさまでした!」

「おいしかったです。ありがとうございました!」

「いいメシ食わせてくれてありがとな!オッチャン」

「いえいえ、どういたしまして」


ゼオンは両手を合わせながら、シェリエールはしっかりとお辞儀しながら、アーシェリは手を腰に当てて笑いながら、三者三様のお礼をし、礼を受けた男性は笑みを返して駐車場のトラックへと足を運ぶ


「ところで、キミ達はこれから帰るのかい?」


運んだ足をトラックの運転席にかけたところで男性はゼオン達へと振り返る


「うん、とりあえず今日はもう帰って今日の仕事のことをレポートに書かなくちゃいけないから」

「じゃあ近くの駅まで送っていこうか?」

「大丈夫!ちょっと前にキルバレンに連絡して迎えに来るようにおねがいしたからな」

「そうか、じゃあオッチャンはこれでそのまま仕事に向かうとするよ」


言葉の語尾に今日はありがとうと付け足してから男性はそのまま運転席に乗り込んで、トラックのエンジンをかける
そしてシートベルトをつけるだけの作業に十秒ほど四苦八苦すると、運転席側の窓を開けて三人に手を振り出した


「今日は助かったぞお嬢ちゃんたち!夜には気をつけるんだぞ!」

「オッチャンもシートベルトの付け方には気をつけるんだぞー!」

「何おー!」


ゼオンとの軽々しい気楽なやりとりを最後に男性はトラックを走らせて、エンジンを吹かせながら店の駐車場を後にしていった

トラックが目の届かないところに消えると、ゼオンはその視界を妹二人へと移すと二人揃って意味深な視線をゼオンへと向けていた

その意図に対して皆目健闘つかないゼオンが黙っていると


「おまえ…シートベルトなら人のこといえないだろ」


さらりと、半端目を細めてゼオンを後ろから睨め付けるようにシェリエールが言い放つ


「昨日、まちがえてシートベルトで玉結びしてただろ」


思い返せば、先日の買い物で車に乗る時、運転席に座ったゼオンはっかり扉にシートベルトの紐を挟んでしまって無理やり装着させたものの、シートベルトを玉結びしたまま車を走らせていたことがあった


おまえほどの間抜けな行動はみたことがないーー

シェリエールはそう思っていても口にすることはなかったが、彼女が表していた表情からそう思わないばかりの雰囲気を見せる


「は…ははは、そりゃあもう過ぎた話さ、2度は無いって…」

「慌てていたとはいえ、二度あったらビックリだよな…」


何とか誤魔化そうと苦笑いするゼオンを尻目にアーシェリは、昨日の家族ピクニックで一人遅れて車の助手席に急いで乗った後に間違えてシートベルトを玉結びして慌てふためくゼオンを思いだして、つい含み笑いを零してしまった