第0話 天使の目覚め



『翡翠世界』『瑠璃世界』『珊瑚世界』『瑪瑙世界』『琥珀世界』ーーー


『真珠の五界』と呼ばれる五つの世界が存在しているなか


その内の一つ『珊瑚世界』に原始の悪魔が住み着き、繁殖してはそこに住う種族を滅したその世界は悪魔が住う世界として、いつしか『魔界』と呼ばれるようになった


やがて長い年月が経ち、100年前ーーー


『魔界』の大半を治めていたバルド・ジークフリートという悪魔の王が君臨していたその時代は悪魔同士の派閥争いが激化しており、人間達の住う最も近しい『瑠璃世界』とも幾らか戦争を繰り返していたその時代ーーー


大きな鎧を纏ったザヴァルグ・バルキルノと名乗る者が同じように鎧の姿をしている七体からなる『ザヴァルグ親衛隊』と共に『魔界』を急襲

その圧倒的な力にて悪魔の殆どを滅ぼされてしまう

彼等の出現によって、ある程度文明が栄えていたその世界の殆どは荒廃と化し、生き残った悪魔はほんの一部のみ

そうして魔界の帝王になったザヴァルグと『魔界』実権を握った親衛隊の脅威に対抗すべく、当時の魔界の第二皇子スタードは少数の悪魔を率いて『瑠璃世界』の騎士団長ホーリエルや、自身と同様に『魔界』から離反した悪魔達や異なる種族の者達を束ね、ザヴァルグに対抗する勢力を増やす

統一国家連盟「ダリアル帝等国」の代表で人類最強と称される魔道士ゼルラージは数多くの民族や国々を決起させ、20ヶ国からなる連合軍を率いてスタードの軍に合流

そうして鎧悪魔率いる『魔界』の軍とスタードとゼルラージを中心とした様々な種族からなる混成軍が激突ーーー後に『世界割り』と呼ばれる大戦を引き起こされた

この大戦でスタードとゼルラージは数多くの犠牲の末にザヴァルグとその親衛隊を倒すことに成功し、彼らの力から『魔界』と『瑠璃世界』を救済し、その功績から英雄と崇められ、闘いにより荒廃した『瑠璃世界』と『珊瑚世界』を立て直したのだった


そしてーーー

それから100年の時が経ったーーー



「この時代のありようは大体理解した、かつて我々が生きていた時代と比べてずいぶんと生半可な世界になったものだな」


ある廃城の地下施設にて、無気味に光るモニターが照らす薄暗い一室の中、逆光を浴びた髪の長い男がモニター内の画面の中を覗き込みながら向かい側に立つ大男へと語りかけていた

それは一昔前の時代の話をするかのように物思いに耽りながら


「あの頃は誰もが明日を危惧し、自らが為すべきことの為に力を求めて切磋琢磨していた。
だからこそ『ザヴァルグ』などという厄災から力で世界を守ることができたというのに、この時代においては力の意義、力の尊厳が大分薄れている」


長髪の男は口にした『あの頃』を思いを寄せるようにモニターが光るパソコンの画面の手前にあるキーボードを操作しながらゆっくりと語り続ける


「嘆かわしいことに、あの魔界に住む連中も、この世界に生きる者どもも、戦いで生み出される悲劇とやらを恐れて強力な力を求めず只々平和に暮らしている
こんな世界は間違った世界でしかない」


そう、偽善にまみれた間違った世界だと
長髪の男は自虐的な歪んだ笑みを浮かべながらそう断言しながらはっきりと言葉を綴る

まるで全てを物語る人々の上位者の如く語る長髪男の言葉に大男は沈黙を禁じ得なかった


「それでは、『王』は平和を否定すると?」

「いいや、平和そのものは否定しない。
私が欲しいのは力に対して貪欲であり、力の支配によって完成された平和、簡単に言えばどのような厄災をも振り払える力の世界だ
そうでなければいずれまたヤツのようなイレギュラーが現れたらこの世界はなす術なく滅ぼされてしまう」


力無くして存在はあり得ないと、そう言わんばかりの意味を込めて、大男に『王』と呼ばれた男はそう語り続けながらパソコンのキーボードを打ちながらモニター越しにある金属製の大きなカプセルに視点を移す

その背後で大男の側にあるツノを持たない漆黒の鎧がモニターの光に当てられて鈍く光っていた


「なるほど…それでこの鎧を」

「ああ、我々が予定よりも早く復活したのは不可解ではあるが、この世をあるべき姿に戻す為にそろそろ『天使』に目覚めてもらうとしよう」


その言葉を皮切りに男がキーボードを打ち終わると、部屋の奥にあるカプセルの蓋が開き、その中から白い翼を生やした白髪の少女がカプセル内の培養液に濡れて前のめりに倒れながら姿を現した


「魔王を名乗った人間の記憶を持ち、『悪魔』としての内面を持つ『天使様』にな」


かくして、始まりの時計はゆっくりと動き出した
力による来たる破滅へ向けてーーー