第1話 始まりの事件 10



ひとまずゼオンは目前のロングテーブル上の中央に赤い薔薇の花飾りが刺さったガラス瓶の手前に会社で手渡されたレポート用紙を取り出して置くと椅子に腰を掛けて、テーブルに置いてあるボールペンを手に取った

同時にその反対側に腰を掛けた四女セレーラルが、部屋に入ってきたゼオンとキルバレン、アウリの三人の顔を見渡した後、ソファーの上で膝を立てて両手を前に投げ出した姿勢でゼオンに目線を合わせる


「そういえばゼオ姉、アーシェリとシェリーはどうしたの?」

「ああ、あいつらは風呂入りに行ったぞ。
電気がついていなかったから誰も入っていないみたいだったからな」


なんでもないようにレポートに目を通し始めたゼオンは何気なく答えるが、対してセレーラルは目を丸くして更に問いかける


「あれ、そうなの?ついさっきマレーシャが入りにいったはずだったけど?」

「マジか!?」


驚きながらもゼオンが右手のボールペンを手の中で遊ばせてると、消灯しているはずの浴室の方から「おい、おまえなんでいるんだ!」とシェリエールの慌しい声が響いてきた


「どうやら本当みたいだな…二人入る分にはちょうどいいんだが、三人だとちょっと狭いんだよな」

「しかし、なんでまた電気をつけずに入ってるんだろうかね~」


頬に右手をつけたセレーラルがテーブルに右肘を立てた後ろで、ゲームのコントローラーから手を離してテレビゲームをやめていたフィオリンとルリアはテレビ画面にニュース番組を映す

テレビ画面がニュースに映り代わっている事に気づいたゼオンは帰宅途中に立ち寄った封鎖区間の事件を思い出し、レポートを書くために手に持っていたペンを一旦テーブル置いた

もしかしたらさっきの事件の内容がーーー

と思っているとき、グラスにお茶を注いだキルバレンがゼオンが座っている席の前にお茶を置いてジト目でゼオンに話かける


「姉さん、レポートを書くのはいいことですが、先ずは着替えて下さい」

「おっと、すまんすまん」


キルバレンに注意されるまで自分が戦闘服のままでいたことをうっかり忘れていた為、ようやくその事実に気づいたゼオンは着替えに行こうと慌てて立ち上がる


そのまま寝室に戻ろうと部屋のドアノブに手をかけたその時、テレビ画面に映るニュースキャスターが先ほどの封鎖区間における事件を放送した


『第一支部市静環通りで今夜8時、人通りが少ない裏道にて男性の遺体が発見されました。』

「姉さん、これって…」

「ああ…」


ニュースの冒頭を聞いたゼオンは手にかけたドアノブから手を離し、同様にその事件を知っているキルバレンと並んで聞き漏らす事がないよう、ニュースを注視する


『男性は腹部を刺された状態で倒れており、第一発見者によって通報を受けて救急隊が駆けつけ、病院に運ばれましたが、既に亡くなっていました』


感情を出さず事務的に事件内容が読み上げられる中、ゼオンやキルバレンはもちろん、割と近所で事件が発生したこともあって先ほどの団欒とした空気が嘘だったかのように他の四人も誰一人喋ることなく真剣な顔でテレビ画面に釘付けになっていた

現場の張り巡らされた厳戒態勢を確認して、なんとなく感づいていたゼオンは、身近で起きた殺人事件に少し衝撃を覚えながらも話の続きを聞き入ろうとするが、画面内のニュースキャスターは更に信じられない言葉を発した

『亡くなった男性は国の公務員である第五支部長のライマルカ・エクスワード部長58歳。
男性は発見される午後7時30分………』


ゼオン達の身近で起きた殺人事件、不可思議な『ピーヌス』の群れの出現、そして天使の存在ーーこれらの現象はこれから起こる事件の始まりの事件
全てが繋がった先、時代を跨いだ未曾有の大事件が勃発する
ゼオン達が知らない間に、その歯車は既に動き始めていたーー