第1話 始まりの事件 09






「ただいまー」


繁華街から少し外れた住宅街の中、玄関を開けてゼオン達四人は自宅へと帰ってきた

それぞれ履物を靴入れに仕舞うと廊下の奥からシェリエールと同じくらいの背丈で橙色で長い髪の後ろに大きな赤いリボンをつけた小さな女の子がパタパタと無邪気に駆け寄ってきた


「みんなお帰りー!今日はねーカレーライスなんだー!一緒に食べよー!!」

「お、おう…」

「いやーしかしオレ達は…」

「うるさいぞ、子供かおまえは」


全身を使って大きく手を振りながら声を張りあげるその姿にゼオンとアーシェリは驚いてその剣幕に押されてしまい、逆にシェリエールは目を半開きにして呆れながら両腕を組む

各々がリボンの少女、『九人姉妹』の七女アウリ・ジークフリートの勢いに立ち止まる中、キルバレンが一番後ろから三人の間を縫うように前に出る


「そういえばアウリには言っていませんでしたね」

「えっ?なになに?」

「姉さん達は既に晩御飯を済ませていますからカレーは食べないんですよ」

「そうなの?」


アウリが三人に顔を覗かせると、それぞれバラバラのジェスチャーで肯定を示す

その答えを見てアウリは暫く頭を俯かせるが、急に表情を明るくしてキルバレンを見上げる


「じゃあ余ったカレーはあうりんが全部貰っていい?」

「ダメです。残りは明日の分に回します」

「え~…」


やれやれ…今日も随分と食い意地張ってるなーーそう思いながら二人のやりとりを横目に、ゼオンは後ろにいるアーシェリとシェリエールに向き直る


「じゃあオレは今からレポートを書いとくからお前ら、先に風呂でも済ませてきな」


ゼオンの提案を聞いた二人はお互いの顔を見合わせながら暫く考えて、洗面所越しに浴槽の扉を見る


「いいのか?ありがとなゼオン!」

「たまには気がきくじゃないか」


明かりがついていないことから誰も入っていないと判断するとゼオンの気遣いに感謝しながら、着替えを持って行くために二人は寝室へと入っていった

その二人を尻目に居間に通じる正面の扉から賑やかな声が漏れており、扉に装飾されたすりガラス越しに慌しい雰囲気が現れていた


「やったー!ルリアちゃんに勝ったー!」

「あらら…負けちゃったね」

「おお!ルリ姉に勝つとはフィオリンも中々腕を上げたのう!」


その扉を開けると、大きな電子音とゲームコントローラーにあるボタンのプッシュ音が響く、淡い色合いの壁紙に包まれたリビングが目の前に広がっていた

扉の手前には、かなり大きなロングテーブルにテーブルを囲む九つのイスがあり、その左側には長いソファーを挟んで大きなテレビが音を鳴り響かせており、テレビの手前で三人の少女がテレビゲームで盛り上がっていた

ゼオンが扉を閉めるとその音に気づいた三人が一斉に振り返える


「あ、ぜおねえにキルバレンちゃんおかえりなさい!」

「おかえりなさい」

「任務お疲れ様!ゼオ姉」


それぞれ違う色の髪をした三人がゼオンの姿を確認すると各々声を揃えるように挨拶した

ゲームのコントローラーから左手だけを離して元気よく上に上げたのは青緑髪を黄色のリボンで束ねている『九人姉妹』の末っ子、九女フィオリン・ジークフリート

眉毛を常に八の字にして困り顔をしながら、お淑やかに挨拶するのは桃色の長髪を後頭部で輪っかに束ねた『九人姉妹』の三女ルリア・ジークフリート

ソファーの後ろで立ち、腕を組んでいた手を解いて、すぐに戯けた態度で掌を額の手前で横向きに構えて敬礼のポーズを戯けて取ったのは水色のセミロングの髪をした『九人姉妹』の四女セレーラル・ジークフリートだった


「ただいまー!」


挨拶をした三人に対して「おう!」と短く返事をしたゼオンの隣でアウリが勢いよく返事をした

もちろんアウリは外出していた訳ではないので誰も挨拶を返さず、すぐさまフィオリンが反応する


「え?アウリちゃんは外出てないよね?」

「これからおにぎり食べにコンビニに行こうと思ったけどやめちゃった」


アウリにいい加減な答えを笑顔で元気よく答えられたフィオリンは、無邪気な姉に苦笑いを返す


「『外出未遂』ということだね
あれだけ食べた後なのにまだ食べようとしてたんだ」