打ち消された刃による煙が立ち込める中、それまで霊気を溜め込んでいたゼオンの持つ二本の剣を振りかざして悪魔を狙う
更にその背後では既にマレーシャが下方からの剣を振り上げ始め、既に悪魔を中心にして挟撃の形になっていた
しかし、それでも悪魔は冷静に攻撃の軌道を見極めてマレーシャごと剣を蹴り飛ばし、ゼオンの二つの刃を両手で受け止める
「ッ…!うそだろ!?」
「フン…」
剣を掴んだ両手でゼオンを手前に引っ張り、カウンターを仕掛けようとした悪魔だが、両手でつかんでいた筈の二本の剣の感触が一瞬で消えていた
「…!」
既にクリムゾンレッドは消失し、体重の行き場をなくして後ろへとバランスを崩した悪魔が視線を前に向けると、予備動作は一切なく、3メートルほど離れた位置でゼオンは攻撃する直前と同じ体制で二本のクリムゾンレッドを振りかざした状態で突然現れた
それでも悪魔は動揺する素振りも驚くこともなく、その大剣が届くよりも先に悪魔は身体を前転させ
「ぐっ…!」
その腹に遠心力を生かした蹴りをゼオンに打ち込む
しかし、今度は蹴られた腹を抱えながら立ち上がって、今度はマレーシャと共に攻撃を継続する為に飛びかかる
「…」
流れるようなフットワークで剣捌きで前衛を務めながら、その隙間から針を縫うようにゼオンが間断なく剣撃を差し込む
更には挟み撃ち、または前方多方面から繰り返される攻撃を繰り出すも素手で止め、または受け流しながら悪魔は考える
思い返せば先程の一連の中にもあった、何もないところからの緑の斬撃の出現、急に消えた大剣の感触と突如現れたゼオンの再度の攻撃ーー
消えた大剣の感触についてはあれは引っ張って離れたというよりは、瞬時に消失したように感じたものだった
そして今現在もマレーシャは相変わらず無駄に剣を振り回し続け、まるでタイムラグかのようにそこから数秒遅れては緑の斬撃が出現しては
ラグのない斬撃と織り混ぜては多方向から同時攻撃を行なっている
ゼオンも強烈な赤い斬撃を飛ばすも、時間によるラグは無く、近づいたところを返り討ちしようとすると、瞬く間に姿を消していた
そしてゼオンはまるで悪魔と組み合う前の時間にループしたように、攻撃の構えをした状態で攻撃前の場所に舞い戻っていた
「なるほど……」
そう言った悪魔は二人が同時に近づくタイミングを見計らい、予備動作なしで莫大な霊気を溜め込む
「『時間』か」
「!?」
そう言って、悪魔は溜め込んだ霊気を爆発させたかのように強力な突風を一瞬だけ造り出し、轟音を響かせながらゼオンとマレーシャを近くの民家の壁へと叩きつけて、一息つく
「お前たちの『メインアクセル』は『時間』なのだろう?」
悪魔はなお戦い始めた位置から殆ど移動せず、未だ悠々と言い放つ
「撹乱系の能力の中でも随分と優秀な能力を持っているようだが、そういった能力はこうも連発するものではない
能力というものは対策を立てられれば有用性は一気に激減する、お前たちのような能力なら尚更だ」
「くっ……」
「宝の持ち腐れというものか、あまり格上との実戦経験を積んでいないと見える」
戦闘の最中でもその場から殆ど動かないその姿に、絶対的な力の差とそこからくる余裕の態度が滲み出ており、ゼオンは苛立ちと焦りを強く感じていた
ここまで『時間』の力を使って撹乱をかけながら攻撃したのに、こうも簡単にあしらわれたことは彼女にとって初めてのことだったーーー
『反復時連直』ーーー
ゼオンのが使用していたこの能力は数秒前の自身の動きとその時の位置を瞬時に再現する力であり、攻撃が防がれた場合、その直前の時間に戻ることで攻撃の初動を行うこと無く、攻撃の軌道を僅かに変えるだけで瞬時に他方向から攻撃ができる
更には移動先は限定されるものの、能力を発動するだけで相手の攻撃からかつての位置に回避することも可能
いうなれば自分限定ではあるが一定の時間内であれば、場所と行動をリセットできる『メインアクセル』と呼ばれる固有能力
そしてマレーシャの『メインアクセル』『時間差動力』ーーー
『ブランチアクセル』である炎刀・飛来刀ーーー
緑の炎を纏った刃を放つ動作をするも、最大二分の間隔を開けて発動タイミングを遅らせることが可能であり、他のタイミングで発動させた能力と重複させて同時攻撃もできるというもの
これら二つの能力を組み合わせれば変幻自在の連続撹乱攻撃による可能とするがーーー
「さて、披露宴はこれでお終いか?」
その連続撹乱攻撃は相手に能力の正体を露見させるだけの結果になってしまった
不敵に佇んで二人を見下げる悪魔の上空から今度は水色のビームが飛来する
これをかざした右腕で防ぎ、着弾時の大爆発が起きた同時にゼオンとマレーシャの中間で、一度離脱したセレーラルが二丁拳銃『オブロンズスカイ』を手に上空から着地して、悪魔と再び相対する
「セレーラル…!オッチャンは?」
「もう大丈夫だよ、それにしてもゼオ姉とマレーシャを相手に相当余裕そうだね…もしかしてメチャクチャ強い…?」
「ああ…気をつけろよ、とんでもなく強そうだ」
二人がかりでありながらゼオンにそこまで言わせ、煙の間から二人とは相対的に悠然と立つ悪魔を見据えて、セレーラルはニヤつきながらも冷汗が頬をつたう