「『神器霊核』だろう?」
「!?」
『神器霊核』ーーー戦いの中でゼオンが召喚した五頭の龍、セレーラルの戦車、マレーシャの巨大な両手ーーー
悪魔はそれらと対峙した時の光景を思い浮かべながら歩き出す
「お前たちが使った先程の力…
知っているだろうがあれはジークフリートの血族のみに扱える特別な力だが、お前たちはその特異性を理解していないようだな」
「何の話…?」
歩きながら近づいてくる悪魔に対し、セレーラルは語りかける悪魔の意図を理解できずに困惑しながら、倒れた木に手をついて相手への警戒を緩めずに立ち上がる
確かに『神器霊核』はジークフリートの血筋である『九人姉妹』のみが持ち得る力
兵士として任務で使うこともあり、多少は知れ渡っているかもしれないが
しかし、悪魔の口から自分たちがその特異性を理解していないという台詞は普通なら出ない筈ーーー
疑問に思うことはあるが、セレーラルは懸命に体制を立て直そうと片膝を立てる
「理解していれば、あの程度の霊気の壁くらい少しは突破できただろう」
「だから、何の話さ!?」
「お、おい!セレーラル!さっさと逃げろ!」
「…セレーラル、お姉さん…!」
悪魔はゼオンへと向けていた足を、セレーラルへと方角を変えて歩き続ける横で、ゼオンとマレーシャは態勢を立て直そうと必死に立ち上がろうと足掻く
「くそっ!」
刻一刻とセレーラルに迫る足音に焦りの感情が染め上がるゼオンはダメージと疲労で立ち上がることが出来ず、片膝をついた状態で悪魔へと右手に生成した炎の球を連続して飛ばす
冷静に考えれば、もっと別の方法で悪魔の足を止める考えが思いつくかもしれないが、精神的に焦燥しており、只々の球を撃ち続けるしかなかった
その程度の攻撃は、先の衝撃を受けてもかすり傷一つ付かなかった悪魔に通用する筈もなく、簡単に振り払われて全ての炎の球が四散する
「くっ……!」
「少し大人しくしていろ
そもそも今のオレにはお前たちをどうこうするつもりは無い
この町を破壊するつもりもな」
「は?」
「…どういうことだ…?」
「…?」
悪魔はゼオンに向けて軽く一瞥する一方、三人は悪魔の言葉を受け、絶句していた
確かに一連の戦いにおいて目の前の悪魔はこちらの力量を測っているかのようにも見えるが、彼が操っていたであろう『ピーヌス』をこちらが全滅させて妨害をしたから、その排除を目的に姿を見せてたのだろうと予測していただけに悪魔の言葉に対して驚きを隠せなかった
「そのことを話してやるつもりはない
それで…」
悪魔はゼオンの質問を無視するかのように蚊帳の外へ起き、先程話をしていた『神器霊核』についての話を続ける
「本来、霊気を生成する霊核は体内の中にしか存在しないが、アレは体外の大気中に擬似的な霊核を作り出すものだ」
かつてゼオン達がその力を発動する際に、背後に現した円盤状の塊がそうだった
そしてその円盤状の霊核からそれぞれの形となるものを生成して現した物体こそが『神器霊核』と呼ばれるもの
ゼオン達は使うことは無かったが、更に『神器霊核』自身それぞれ更なる能力を持っており、通常の能力を遥かに凌ぐ大規模な力を有しているが、その反面消費する霊気量は膨大で、よほどのことがない限り多用はできない
「基本、霊核は体内にあるものだが、身体によってある程度体外と隔てられている
だから、能力の発動にも体内の霊気のみという制限された物量しか放出ができない」
「…」
「だが、外に剥き出しになった霊核は別だ
近づきさえすれば、周りの霊気を吸収することもできる
たとえそれが敵の霊気だったとしてもだ」
悪魔の言葉を聞き、ゼオン達は全身が痺れたかのように硬直した
その可能性を考えていなかったこともあるが、悪魔の言葉が本当ならジークフリートの血筋しか持ち得えない力を自分たちですら知らない面を知っているという驚きがあった
その驚きが外面に出ていたのか
悪魔は涼しげに苦笑じみた表情をしながら空を見上げて言葉を紡ぐ
「まるで初めて知ったかのような顔だな
自分達の扱う力だというのに呑気なものだ
戦う者でありながら、自らの力を知りもせず、よほど平和な世界を穏やかに満喫していたのだろう…」
まるで平和を忌み嫌うように言葉に重みを乗せた悪魔はその顔に諦めのような感情を滲ませながらゼオン達に背を向けて歩き出す
もう用が無いと言わないばかりに
「これは本当に…『壊す』必要がありそうだ…」