セレーラルの攻撃が着弾して次々と大爆発を起こす中
まともに立つこともままならない中途半端な姿勢でゼオンとマレーシャも炎の球を悪魔がいるであろう煙の中へと放ち続けていた
手応えはあった、あの状況ではあの悪魔も只じゃ済まない筈ーーー
そう思ったゼオンは攻撃の手を止めるとセレーラルとマレーシャも攻撃を中断して煙が晴れるのを待つ
しかしーーー煙の中から聞こえたのは悪魔の呻き声や苦痛の声ではなく、淡々とした冷静な声がだった
「よもや一度聞いただけで霊気の吸収をやってのけるとは驚いた
『神器霊核』はそう簡単に扱いきれる代物ではないんだがな…」
「!?」
大量の霊気を消費して息を切らせたゼオンとセレーラル、そして霊気の余力を残すもののまともに立てずにいるマレーシャは目前の煙を凝視する
暫くして煙が晴れると中から姿を現したのは紫色をした小さく透明な建物に囲まれて悠然と立つ悪魔の姿だった
そしてその両手と背後には紫色ではあるがゼオン達が『神器霊核』を発動した時に現れたものと同じリング状の形をしたものがあったーーー
「お陰様で見せるつもりがなかったオレの『城』を見せてしまうことになるとは…
まぁ、流石『ジークフリート』だと言っておこう」
「嘘だろ…!?」
「あんた、その力って…!?」
悪魔のその姿を見て驚愕の余り、ゼオンとセレーラルは次々と驚きの声を漏らす
ジークフリートの血族にしか扱えない『神器霊核』を発動させているということは、目の前の悪魔もゼオン達と同じジークフリートの血族だということを示していると同義だった
その事実に衝撃を受けざるを得ず、戦闘中である筈なのに三人揃って動きが止まる
「お前は一体…」
「言っただろう?力ある『ジークフリート』を知る者だと」
その衝撃にゼオンは再びかつてと同じ質問を問い、その答え悪魔も同じ返事をするがあの時とは違い、その左手の甲からは少量とはいえ血が滲んでいた
「お前たちの最後の健闘は悪くはなかったが、まだまだだ」
悪魔はゼオン達に初めて健闘を評価した後、下ろしたフードを被り直し、再び三人に背を向ける
先程と同じような状況ではあるが悪魔のその表情には何の感情も写されていない冷徹なものであったが、その眼差しには少なくとも期待に近い色が込められているような感じが滲み出ていた
それが何を意味するのはゼオンは気にすることなく悪魔の背中を追い縋ろうと力無く足を前進させる
「おい!逃げるのかお前は!?」
「ああ、どのみちもうお前たちに用はない」
感情を露わに叫ぶゼオンに対して、悪魔は背を向けたまま、振り向きもせず宙に浮いて三人に言葉を投げかける
「強くなれ、ジークフリートの末裔よ
そうすればお前達は『これからの時代』で必ず世界を支える必要な存在になることができる」
力こそが必要な時代に、そしてーーー
「力こそがその存在を許される絶対条件なのだからな」
力こそが存在の根源ーーー
そう言わんばかりの発言を残し、絶対的な力の差を見せつけたた悪魔は満足に動けないゼオン達を残して彼方へと飛び去っていった
「力あるジークフリートを知る者…か」
「ゼオ姉、マレーシャ、大丈夫?」
追いかけようにも追いかけられない状況の中、セレーラルの呼びかけに軽く頷いたゼオンは途方もなく、悪魔が飛び去っていった先を眺めながら呟く
「あいつは…誰なんだ…?」
「そうだね、それになんでこんなことを…」
「……」
取り残された三人はその場を動けず、掴めもしない遥か上空の雲に取り残されるが如く、只々呆然とすることしかできなかった