しかし、二人から帰ってきたのは戸惑いの表情と沈黙だけだった
首を傾げて呆けるアウリの背中に手をあてがって、ゼオンは顔を屈めながら語りかける
「いいかアウリ、何時も言ってることだけど自分は最強だと、微塵にも思ったら駄目だぞ」
その『何時も』は常に戒めの為に言っていたが、ゼオンは自分で口にしていながら、はっきりと現実のものとして自分の中に刻まれる感覚を強く感じていた
自身の常識内で最強になっても、世の中にはその範疇を逸脱した常識外の存在がおり、その強さには通用しないと
「う~ん…?わかった!」
言葉を向けられたアウリが暫く呆然としていたと思ったら、急にいつもの元気で能天気な返事が返ってきた
その様子を見てマレーシャ以外の一同はアウリが本当に理解してくれているのかどうなのかと不安そうな顔をしながら苦笑いする
「ところでアウリよ、我々はこれから能力のおさらいを執行するのであるが、キミも付き合うかい?」
その場の空気に区切りをつけるように、セレーラルが芝居がかった口調と手振りでアウリに手を差し伸べて語りかけるも、アウリは首を横に振って断った
「あうりんはきるきるに頼まれて夕飯の仕込みをしなきゃいけないから直ぐはダメだけど、その後だったらいいよ!」
きるきること次女・キルバレンに料理の仕込みを頼まれていたアウリは、その仕込みの具材が入っていると思われる買い物袋を頭上に翳す
「なる程、アウリは時たまに勘違いから酷い駄作料理を作ることはあるけど、基本的には料理はできるからねぇ~…それに比べて…」
喋るセレーラルの言葉は続かないけれども、ゼオンに向けられたその視線が何を語っているのか、視線を向けられた本人も含めて全員が理解した
そう、今までゼオンが作った料理は例外なくマズい料理だけだった
「いやいやいやいや…お前だって似たようなもんだろう!」
「私は料理に関しては知識も経験もないだけだって」
「それはそれで駄目だろう」
「確かに駄目だけど、でもゼオ姉は知識があった上で出来てないじゃない」
何やら料理ができないもの同士、言い争いが始まりった二人の間から離れていアウリとアーシェリは観客気分で眺めていた
「らるちんだったら頭良いから勉強すればできるんだろうけど、何でやらないのかな?」
「さーな、めんどくせーだけじゃねーのか?」
やがてどっちが料理ができないという話はやがてお互いの口論をヒートアップさせてしまい、収集がつかなくなってきたが、何方も料理下手という点で、
互いに譲れないものは殆どない筈なのだが
それでも感情が昂っていく状況になっても、流石に妹達の手前、長女と四女はお互いを強く罵倒するような言葉遣いはせず、理性を持って言い争いを続けていく
そんな中、場の空気を気にすることなく、マレーシャが二人の間に入っては、そのまま自宅の玄関へと歩く
「結果的にはどっちも料理が下手だよね…」
と、すれ違いざまに真顔で言いながら
珍しくマレーシャが喋ったことと、葉に絹着せない物言いに二人の動きが凍りついてしまった
どうやら、普段から文句を言いかねないアーシェリや、言葉に重みを感じさせないアウリに言われるより余程堪えるものがあったようで、マレーシャに続いてアーシェリとアウリが帰宅した後も放心したように二人揃ってその場に立ち尽くしていた
やがて、時が動き出したかの如く二人の元に風が吹き込むと、互いにしょんぼりとため息を零す
「ごめんゼオ姉、ちょっと言い過ぎたよ」
「いや、謝るのはこっちの方だ
仮にも長女だからもうちょい冷静になるべきだった」
二人とも謝罪をすませると、どちらともなくお互いに肩を組み合って玄関を目指して歩き出す
「でもゼオ姉がメシマズなのは変わりないけどね!」
「おまえなぁ~…」