第4話 アクセルの力 03



そうして玄関を潜って帰宅した後、ゼオン、セレーラル、マレーシャの三人は戦闘服を一新し、アーシェリと家で待機していた八女・シェリエールも戦闘服に着替えて、五人で地下へ繋がる階段を降りる

突き当たりまでまっすぐ降りると、地上より遥かに大きな扉がそびえ立っていた

その扉を開いて足を踏み入れたその先には、白いコンクリート壁に覆われた巨大な空間が広がっており、突き当たりの壁際にはトレーニング器具が横並びに並んでおり、その左手には雲梯や綱渡り等、アスレチックのような大きな遊具があった

更にトレーニング器具を挟んだアスレチックの反対側は射撃訓練で使われるターゲットボードが無造作に置かれており、まるでトレーニング施設を思わせるような風景が一面に広がっていた

本社にもトレーニング用の施設があるのだが、それに比べると幾分かは格が落ちる部屋ではあるものの、周りの目を気にせず、自分達のペースで鍛えることができる為『九人姉妹』はこの部屋を愛用している

元々は廃れてしまった地下施設ということらしいが、『九人姉妹』の父親であるカイン・ジークフリートが施設そのものを買い取り、隔たれていた幾つかの部屋の壁を全て取り除く改装を行なって出来た部屋である

最も、今回に限ってはゼオンとセレーラル、マレーシャの三人は運動を制限されているので、部屋にある設備は殆ど使うことが出来ないのだが


「そういう訳で諸君!我々はこれから我々自身が持ち得る能力を最大限に活かす為におさらいを行うべく、ここに集ってもらった」


その部屋の真ん中でホワイトボードを背にしたセレーラルが椅子に座る残りの四人に対して演説めいた言葉を放っていたのだが本人自身はやる気に満ちており、大袈裟な手振りをしながら注目を集める為にホワイトボードを軽く叩く


「早速だけど先ずは『メインアクセル』の説明といこう!」

「きゅうになんだ」

「なんつーか今更って感じがするんだが…」


それぞれシェリエールとアーシェリに軽いブーイングを受けたセレーラルは片手で静止して訳を話す


「私たちは今持ってる能力の向上だけを目指して鍛えることばかりしかしていなかったからね、今日の反省を機に振り返ってみようと思ってね」

「なるほどな…」


ゼオン達から、任務で戦った悪魔に自分の能力に関する無知な部分を指摘されたことを聞いていたアーシェリは納得して、ゆっくり頷く


「それでゼオ姉!『メインアクセル』とは?」

「えっ?お、オレか!?」


セレーラルからのいきなりの指名に虚を突かれたゼオンはもたれかかっていた姿勢を直ぐに戻して、どう答えようかと沈黙する


「そうだよ、まずは長女としてビシッとね!」

「そりゃあ『メインアクセル』は能力だ…」

「いやあ…そういうことじゃなくて、その能力の説明だよ」

俯いて考えるゼオンの手前、セレーラルは肩を竦めて彼女の回答を待つも、心の中では回答に全く期待していなかった

彼女の面子の為に妹達の目の前で堂々と暴露する気はないが、昔学びはしたものの、感覚のみで実践を行い、理論に関しては今に至るまでの長い時間の中で忘れてしまったのだろうと、セレーラルは解釈する


「うーん何というか、体全体で表す能力の代表…みたいな?」

「すごい抽象的だけど、間違いではないかな」


ゼオンの回答を聞いたセレーラルはゼオン同様に感覚的に物覚えしかしなさそうな妹を探し、アーシェリと目が合うと目線の動きを止める

すかさずアーシェリは露骨に目線を外すものの…


「はい、じゃあアーシェリよ!答えておくれ」


結局見逃してはもらえなかった
わからないものはわからない為、アーシェリは観念しながら正直に口を開く


「もう覚えてねーよ…」

「素直でよろしい!けど、理論は覚えておいた方がいいよ
理論あっての応用だからね」


二人からの回答を引き出したセレーラルは黒いマーカーペンでボードを小突いて、視線を自分に集中させるとボードに文字を書き込みながら説明を開始した

「私たち能力者はまず、体内の心臓部にエネルギーを霊気に変換する霊核を形作ることから始めるけど、『メインアクセル』というのは霊核と体外に纏う霊気を直接繋げて発動させる能力の事だよ」

「…」

「まぁ本来霊気は神経回路や血流を通して外に流すものだけど、そのときはそれらと別に体の中に『アクセルライン』という霊核と体の外を繋げる線を使って霊気を外に流すんだ」


『メインアクセル』に関しての説明を続けながらセレーラルは簡易的な人間の全身像をボードに描いた上で図形を通してわかりやすいように解説する


「言い方を変えれば体内にある能力の元となるものを霊核で発生させて、『アクセルライン』を通して体外に纏った霊気と交わると発動する力なんだ」

「なるほど」

「だんだん思い出してきたぜ」


ここにきてようやく記憶が鮮明になっていき、ゼオンとアーシェリはは頭の中がクリアになっていくような感覚を感じていた

「しかも『アクセルライン』自体は全身にあって、霊気が拡散するから、ゼオ姉の言う通り体全体を使う能力が結構多いんだ」


実際、ゼオンの『メインアクセル』である『反復時連直』は過去のゼオンの位置と態勢を強制的に再現させるように、全身を強制移動させる能力だった