第4話 アクセルの力 09



しばらくしてアーシェリは恐る恐るゆっくりと眼を開けて、体に絡みついた龍を見ながら眉を潜めて疑問の声をあげる


「……何にも起きねーぞ?霊力を吸われてる感じもしねーし…」

「違うのか…」


その龍の姿はかつての戦いのように肥大化せず、アーシェリの言う通り何も変化が起きていなかった


「うーん…」

「頭捻ってねーで、さっさとコイツを外してくれ!」


アーシェリに言われて、『神器霊核』を解除して彼女を解放した後、ゼオンは腕を組んで考え込む

あの時の似たようなシチュエーションを再現してもらったのだが、思うように結果が出せずモヤモヤ感に頭を悩ませるだけだった


「なぁラル、ほんとに吸収できてたのか?」

「私からはそう見えていたけどね、実際に相手もそう言ってたし」


ゼオンのことを信用していない訳でないが、妙な勘違いやうっかりが多く、今回も何か思い違いがあったんじゃないかと思ったアーシェリだったが、どうやらそうではないらしく、隣に座るマレーシャもセレーラルの言葉に同調するように頷く

その様子をよそにアウリはシェリエールの肩を叩いて彼女に協力を持ちかけていた


「ねぇねぇ!あうりんたちもやってみない?ぜおねえと違ってlevel2だからできるかどうかはわからないけどね」


シェリエールは不安な表情でアウリの攻撃が自分に当たる想像を膨らませてしまい、かぶりを振って提案を断る


「いやだ、おまえはうっかり攻撃しそうだから」

「じゃああうりんは被験体の方でいいよ!」


無垢な笑顔で自ら受け役を提案するとシェリエールは少し驚いた顔をして聞き返す


「ほんとうに、わたしが発動するがわでいいのか?」

「うん!」

「とりけすなら今だぞ」

「大丈夫だよ!」

「怪我してもしらないからな!」

「あうりんはしぇりちゃんを信じているから大丈夫!」


シェリエールの事を信じて疑わず、敬礼のポーズを決めて満面の笑みを見せるアウリに対して、彼女を傷つける恐れから焦燥感を感じていながらも自分からは引こうとしないシェリエールは、顔から冷汗が浮かびはじめていた


別に攻撃する訳ではないものの、『神器霊核』を使って霊気の吸収を試したことがなく、感覚的にも釈然としないものがあり、意図せずに勢い余ってアウリにダメージを与えないかと不安な気持ちが少なからずシェリエールにはあった

『神器霊核』はシェリエールだけでなく彼女達九人姉妹にとって奥の手とも呼べる力だが、その分扱いが難しい能力でもある


「だいじょうぶかな……こいつについて、しっかりとあつかいかたをれんしゅうしたほうがよかった」


内なる不安から、つい彼女らしからぬ弱気な言葉が漏れる

そうして呼吸を整えて息を吸うと、一際大きな気合の声と共に黄色い霊気が勢いよくシェリエールから弾け飛ぶ様に室内に風を巻き起こした


それから暫くして、外の景色が赤色に染まり、地面を侵食するように建物の黒い影が所々伸び始めていた頃


「あーーっ!こりゃ全然ダメだー!」


『神器霊核』の扱いを練習し始めてから約一時間経過していたが、全員が成果を掴むことなく、アーシェリは額から汗を流しながら大の字になって仰向けに倒れていた

他の四人も倒れ込んではいないが、椅子に座っていたり、壁にもたれかかったりと体を休めている


「おかしいな…あの時は出来てたはずだが…」


倒れ込んだアーシェリの隣にゼオンが独言ながら腰を落ち着かせて、頬に手を当ててあの時の感覚を思い出そうとする


「なんか特別な条件でもあったんじゃねーのか?」

「うーん…そんなことは無いと思うけどな…」


一方シェリエールとアウリは二人で独自に色々試していたようだが、特に収穫は無かったようで、休憩がてら座り込んでいた

それらの様子をマレーシャと共に遠目で見ていたセレーラルはこれまでの状況観察を振り返る

アウリは終始膨大な霊気を身体中に保ち続けていたが、接触したシェリエールの霊獣が稀に瞬間的に消え去ることがあり、その度にシェリエールは歯噛みしていた

その後に何度かトライしている限り、スタミナや霊気が持たなかったり、自分の意思で霊獣を消している訳ではなさそうだった