第2話 悪魔の操り手 02



そうして朝食を済ませて各々時間を過ごした後、ゼオンを先頭に三人はカンパニー産業国・本社のラクナ司令室受付まで足を運んでいた

少しだが、珍しく焦りを見せる表情をしたラクナ司令にゼオンは昨日まとめた任務のレポートを手渡した後、彼から今日の任務を突拍子もなく提示させられた


「はい?またあの森に『ピーヌス』の集団退治か!」

「たった今、国から我々MLSに勅令が入ったところだ」


MLS…Multi legged soldierの略称であるラクナ直轄の九人姉妹だけが所属し、少人数行動と少人数であるからこその任務の即時対応に適した部隊である

今では主に軍部の軍隊を動員するほどではない任務に対して駆り出されることが多いのだが


「本来は別の任務を受けてもらうつもりだったけど、目撃者の話によると十体異常いるものという話で、今現在も暴れているそうだ
これを治める為に今すぐ緊急で行ってもらうよ」


そう話すラクナの口調はいつも見せていた気怠げな様子に反してどことなく早口であり、キビキビとした仕草から彼なりに焦っているのが見て取れた


「げっ!?ヤツら集団でいんの?」


セレーラルは嫌そうに眉をしかめて咄嗟に反応しながら、ラクナの話をそのまま聞き入る


「任務内容の詳細は君たちが社用車に乗った後に、追々通達する
車はすぐに手配するから、直ぐに会社の正面玄関に行ってくれ」


その前に聞きたいことは幾らでもあったが、彼の切羽詰まらせている様子にゼオンはそれら疑問を口の中に飲み込んで、エレベーターへと駆け込んだ


「あっ!ちょっとゼオ姉!?」

「…?」


殺人事件があったせいでゼオン達から、昨日任務内容を聞きそびれていたセレーラルとマレーシャも、話の内容が分からないままゼオンについていき、エレベーターで下へと降っていく


「ちょっとゼオ姉、いくらなんでも突拍子すぎだよ」

「迅速行動が第一だぞ、セレーラル
人が襲われてるなら尚更だ!」

「そりゃそうだけど」


エレベーターが扉を開けると急いで本社の外へ出て、正面で既に待機していた社用車の後部座席に乗り込む

車がサイレンを鳴らし始めて発進する中、車内部の上部モニターがラクナの姿を映し出された

その姿を確認すると同時に三人はそのままモニター内のラクナが話し始めるのを待つ


『急な通達で申し訳ない、早速だけど任務内容の確認をしよう』


その言葉にゼオンは真剣に、セレーラルは顎に手を当てて難しい顔をしながら、マレーシャは無表情のままラクナの言葉に頷く

おそらく今こうしているときにも事態は進んでいるのだろう、落ち着きを取り繕っているようでその額には汗が滲んでいる


『目的地は南エリア5、郊外の森林地帯の麓一帯
内容は被害を受けている現場の『ピーヌス』の捜索及び排除
後続に軍部から再編された調査隊と駐留兵の要請があるはずだから、彼らが着いたあと現場が落ち着き次第、本社に戻ってきてもらう』


昨日に続いて今日も…しかも統率者である上級の悪魔がいない限り群れることがない『ピーヌス』が同じ場所で再び集団でいるということはーー
と、そこまで考えたゼオンの思考に続くようにラクナが話を繋いでいく


『調べたところ、今までのヤツらの群れの目撃例の全てが国の南に偏っていた
おそらく上級悪魔が率いているのはほぼ間違いない筈だから、もし戦闘になる際はくれぐれも用心しておいてくれ』


上級悪魔との戦闘ーーピーヌスとは違う、明らかに強い存在と遭遇するかもしれない可能性にゼオンは知らない内に両手に握り拳を作る

さらにそれが近隣住民に被害を与えていることを思ったら彼女の中に静かな怒りが灯り始め、いずれ辿り着くであろう目的地を思い出しながら車のフロントガラス越しの風景を凝視する

その隣でセレーラルが自重気味に掌をモニターに向かって少し挙げながら、やや緊張感の欠けた声でラクナに質問をする


「あの~この件は魔界の方には連絡してあるの?」

『ああ』


『魔界』…かつては『珊瑚世界』と呼ばれた多くの悪魔達が住う世界で、昔は人間と敵対しており何度か戦争をした相手だが、人間同様戦争続きで疲弊した後となった今では盟約を交わし、有効な関係を築いている世界である


『すでに向こうの王には連絡済みで、魔界としてはこのことに関与してはいないらしいが、悪魔が個人単位で事件を起こしている可能性はあるとのことだ』

「個人単位?」

『どうやら向こう側の情勢は一筋縄じゃいかないらしくて、最近、規模は小さいけど現政権を覆そうとする平和を嫌う過激な武闘派集団がいるらしい』