やがて見えたその全身は黒いローブで覆われており、顔はフードで大部分が隠れて目元くらいしか見えないが、フードの両サイドが不自然な形で左右に何かが伸びているのがわかる
おそらく角や大きな耳あたりが生えている上級悪魔なのだろう
そう判断したゼオンは確認の為、ローブを着込んだ者に問いかける
「お前が『ピーヌス』を操ってこの付近を荒らした悪魔か?」
「『ピーヌス』?」
ローブの悪魔は疑問の声を上げると、辺りに倒れている悪魔を見下ろして周囲の痕跡を見渡す
喉元を貫通して倒れた悪魔、腹を斬り裂かれた悪魔、そのどれもが共通しているのはどれも一撃必殺で倒されていること
その事実を踏まえた上でそれらを一瞥したあと、納得したかのように視線をゼオン達に戻すと、先程の質問に対して回答を出した
「ああ、こいつらのことか…確かに、この場へとこいつらを誘導したのはオレだ」
「…?」
相手の答え方に引っかかりを覚える部分はあったものの、本人の回答からこの事件の下手人は目の前の悪魔であるようだ
誘導しただけなのか、襲撃の指示もしているのかはわからないが
ノーガードの構えのまま淡々とした口調でスキだらけの相手に対し臨戦態勢の構えをとりながら、いつでも飛び込めるようにゼオンは腰を低くする
「なぜ、このようなことをーー」
「今度はこちらから質問だ」
ゼオンの更なる質問を打ち消すように、語尾に重みを乗せた質問を返しながら、ゆっくりと歩み寄り始めた
「お前達は強いのか?」
悪魔はそれこそが最も重要だと言わんばかりにより重く、よりはっきりとその言葉を口にする
言葉の真意は理解できなかったがゼオンは相手を威圧しながらはっきりと言葉を返す
「強さには自信があるが、そんなことを聞いてどうする」
「そうか…ならばその強さというものを見せてくれ
オレがこの町を破壊する前にな」
「ああ、オレ達がお前を死なないように拘束させてもらうさ」
悪魔は暫く口を閉じた後、口元に笑みを溢すと一言呟く
「死なないように拘束…か」
そして静かに霊気を放ちながらその場から一歩だけ踏み出すと同時に、相手の初動を感覚的に察知したゼオンとマレーシャは十メートル以上もの距離を瞬間的に詰めて左右から悪魔に斬りかかった
初動のスピードで一気にカタをつけようとした二人が剣を振りおろす直前になっても、ゼオン達の速さに反応出来なかったのか、悪魔は最初の一歩を踏み出した後は微動だにせずただ立っているだけだった
捉えたーーー
今この状況に勝ちを確信し、剣を振り下ろし始めた直後ーー
悪魔はゼオン達をも遥かに上回るスピードで、眼前に迫る二本の大剣の前に姿勢を低く構えて一歩踏み出し、気づいた頃には二人の腹に拳を繰り出していた
「・・・つッ!!?」
剣が振り下ろされる直前まで全く動く様子がなかった悪魔に対して反撃の可能性を考えていなかった二人は、予想外のカウンターを受けて声にならない悲鳴をあげる
そのまま10メートル近く吹っ飛ばされながら剣を地面に突き立てて何とか受け身を取るものの、たったの一瞬で相手との力量差を感じて、無意識に一歩引いてしまう
「けほッ…ゲホゲホッ…」
腹部のダメージはかなりのもので腹を抑えたい気持ちをなんとか押し込め、武器を構えながらも荒い咳を繰り返えす
強いーーーとんでもなく
そう思った時、悪魔は先程の呟きに続く台詞を口にする
「残念だーーー」
「……?」
「ーーーお前達程度の者が強者を名乗るまでに、この国の力は弱くなったのか」
「…く…!」
諦め、落胆、フードに隠れて表情は見えなかったが、その口調と言葉には負の感情が滲み出ていた
自ずと力を込めるものの、攻撃が当たる直前まで構えることすらしなかった相手との決定的な差を見せつけられては反論の言葉すら出ない
少なくともゼオン達より身体的なスペックでは悪魔の方が圧倒的に上なのは間違いないーーー
そう、身体的なスペックではーーー
「マレーシャ」
「?」
「本気で行くぞ…!」
「…うん」
お互いの顔を横目で見合わせて、張り詰めた顔をした二人から風が渦巻くくらいの強い霊気が発せられる
そしてマレーシャが演舞でも行うようにヴェデュールリーフをその場で振り回し始める後、悪魔に向かって単独で突撃し始めた
ゼオンはその場で霊気を双方のクリムゾンレッドに纏いながら溜める一方
マレーシャはヴェデュールリーフを振りかざし、今にも斬りかかるというタイミングで攻撃の手を止めて悪魔の頭上を飛び越える
「炎刀・飛来刀…!」
そう呟くと同時に先程マレーシャがいた後方から突然、緑の炎を纏った斬撃が複数現れて悪魔に向かって飛来した
「…!」
更にマレーシャがヴェデュールリーフを振りかざして炎刀と挟み撃ちを狙う
一瞬、悪魔が何らかの感情を表したかのように感じたが、難なくこれらを素手をかざし、掌から放たれた霊気で炎刀打ち消してマレーシャの攻撃も素手で受け流す
だが、まだ攻撃の手は止まらないーー