第3話 百年前の残滓 06



実際に任務は成功したものの、現れた上級悪魔に一方的にやられたことーーー

ジークフリートの血族にしか扱えない特殊な力『神器霊核』を、その悪魔が扱っていたことーーー

そして『力あるジークフリートを知る者』と言っていたことをーーー

マレーシャがボーッとしている傍でゼオンとセレーラルがアーシェリにこれらの経緯を話し終わるまでに20分かかっていた

場所を移動しながら説明していた為、気がついたら誰もいない待合室に場所を移し、全てを語り終わった頃にはアーシェリは座席に座りながら両手で頭を抱えていた

アーシェリは二人の言葉を信じていながら、信じ難い驚愕な出来事が語られたことの二つの思いが衝突していることを唸りながら蠢くことで自然と表していた


「大体話はわかった…いや、わかったようでわかってねーかもしれねーが…一番気になるのはその悪魔ってのがあたしたちと同じジークフリートかもしれねーことか…」

「もしくは名前はジークフリートじゃないけど、先祖が一緒って可能性もあるかもね」


セレーラルはアーシェリのセリフに人差し指を立てて言葉を付け足して答え、アーシェリはより一層顔に難色を示す


「言ってることを信じてはいるんだが、正直あたしとしては嘘っぽいとしか思えねーんだよな…」


混乱する脳内を頭部を掻きむしって落ち着かせようとするアーシェリにセレーラルは人差し指を立てて


「アーシェリよ、私たちの先祖っていつの代から『神器霊核』を扱えるんだったっけかな?」


「え?あ、ああ…いやー結構前の代からってことだけは知ってるけど、詳しくはわかんねーな」


恐らく回答を知っていながら質問を投げかけるセラーラルの意地の悪さを感じつつ
考え事をしながら唐突に話題を振られたアーシェリは答えが分からず戸惑いの声を上げて、助け舟を求めてゼオンに視線を投げかける

目線が合ったゼオンも分からないらしく、お手上げのサインを示していた

結局誰も分からないか、と思ったセレーラルが一先ず話題を変えようとした時

だんまりを決め込んでいたマレーシャが呟いた


「魔界の第一皇子ルーシェス・ジークフリート、第二皇子スタード・ジークフリート…」

「へっ?」


突然小声で放つ台詞にあっけらかんとしたセレーラルはマレーシャへと目線を移すも、反応を求められたマレーシャは首を傾げるだけだった

聞き返そうとするといつもこれだよね…

そんな内なる声が頭の中で木霊するセレーラルの隣で、突然アーシェリは閃いたかのように顔を上げて立ち上がりながら両手で机を叩く


「そうだ!確か100年前、魔界の王様だったバルド・ジークフリートは『神器霊核』がなかったっつー話を聞いたことがあったな!
で、その奥さんが神様らしくて…えーっと名前は何だっけかなー…?」


さしてすごい閃きでもないのにすごいオーバーリアクションだなーー
ゼオンはアーシェリの急な動きと手振りを交えた弁舌に気圧されつつも、聞いたことがあるようなその神様の名前を思い出そうと頭を捻る

目前の席に座るセレーラルがその様子を見ながら考えもなしに思い浮かべた名前を次々に並べる


「クリームだったっけかな?いや、そうだグレンだ!」

「ああ、そうそうグレン・ジークフリートだな!」


わざとらしく口にした名前を愚直に信じたアーシェリを側から見ていたゼオンは、本当の名前を思い出して、間違いを指摘しようと口を開く


「違う違う、グリーーー…」
「グリム・ジークフリートだよん」

ゼオンに先を越されないようにセレーラルは含み笑いしながら間髪入れずに本当の名前を口にした

知っていたんなら先に言えよと、ゼオンとアーシェリは流し目でセレーラルに訴えるが、当の本人は間の抜けた猫のような顔をしてシラをきっていた

真面目に話をしていたと思ったら所々茶々を入れずにはいられない

四女・セレーラルはそういう奴だということを年長者の立場として理解していたゼオンは黙殺していたが、妹の五女・アーシェリはすかさず突っ込む


「こんなことで騙すなんてひどいじゃねーか、ラル」

「いや~悪いねアーシェリよ
騙す気はなかったんだけど騙したくなっちゃってね」

「結局騙す気があるじゃねーか…まあ、そんな事で怒る気はねーけど…」


それでーーーと周りに向き直ったアーシェリは言おうとしていた話の続きを口にする


「そのグリムって人が『神器霊核』とは似てるけど違う能力を持っていて、悪魔の血が入ったグリムの子供達が初めて『神器霊核』を発動したって話を聞いたことあるぜ」

「それがルーシェス・ジークフリートとスタード・ジークフリートねぇ~」